犯人当て 
模範解答

まず、推理の前提として、ここでは「動機」など推測の域を出ない検証は避けて。「犯行時間に殺人が不可能な容疑者」を消去法で消していき、残った一人を犯人だと特定する手法を取ることにする。

まずは、「犯行現場の部屋にたどり着けない者」を検証していくことにする。事件前後の屋敷内での動きについて、我々が知りうる有効だと思われる証言は、「二階でのジシェの目」と「食堂での警備員・ベルントの目」の二つである。

屋敷の見取り図を確認すると、この二つの目の存在によって、ゴードン及びハインツが、容疑者から外れることが確認できる。ハインツに関しては、一旦中庭に出ることが可能に見えるが、犬が吠えるためそもそもキッチンから出ることが不可能である。

……以上の検証から、まずはゴードン、ハインツの両名が容疑者から外される。

次に、「犯行現場から出られない者」の検証してきたい。ベルントは事件後、入り口に鍵がかかっていたことを証言している。そこで、マスターキーを持たない、エリーゼ、カイが容疑者から外れる。エリーゼは「通気口」通ることで部屋の外に出ることが可能だが、事件後の通気口の中がホコリだらけであることが確認できているため、その可能性はなくなる。（また、エリーゼは通気口のそばにある鏡で、ジシェに見られてもいない）

また、カイは事件当時ディアナといたであることから、二人の共犯であればハシゴを二人で持ち上げ、「窓」から出ることが可能であると思われるかもしれない。が、ディアナは極度の高所恐怖症であるため、テラスに出てハシゴを持ち上げることは不可能。あるいは、もしカイがディアナからマスターキーを借りたとしても、ジシェとベルントに目撃されずに犯行現場にたどり着くことは不可能である。

……以上の検証から、エリーゼ、カイの両名が容疑者から外される。

さて、残った容疑者は、ディアナ、ベルントとなる。だが、この二人に至っては、犯行そのものが困難だ。ディアナは極度の高所恐怖症のため、地下室の階段の上から父親を突き落とすことは不可能である。また、ベルントは、少量の血を見ただけで気絶するため、首切り殺人など到底不可能である。

……以上の検証から、ディアナ、ベルントの両名が容疑者から外された。

上記の検証の結果、ゴードン、ハインツ、エリーゼ、カイ、ディアナ、ベルントと、容疑者全員が犯行不可能となってしまった。
……だが、ある一つの可能性を考慮するだけで、犯行が可能な者があっけなくあぶり出されることとなる。それはーー犯人が「吸血鬼」である可能性である。

ここで、物語の中の「とあるセリフ」に注目したい。
それは、待機室での以下のジシェの発言である。

「いち、に、さん…… 
三人だけ？
あ、一人はキッチンにいるから全員いるね」

ここで指摘されている４人は、ディアナ、エリーゼ、ベルント、そしてハインツのことである。だが、ジシェは本来であれば鏡から見ているはずのゴードンのことを、全員に含めていない。つまり、ジシェは鏡の中からゴードンを見ることができないのだ。そのことが指し示すことはひとつ、それはーーゴードンが吸血鬼だという真相である。

そのことを考えると、「ジシェが見ていないから」という、ゴードンのアリバイはあっけなく無意味なものとなる。「ラインヴァイス家殺人事件」の犯人はーーゴードンである。